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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ドアをあけて小さい店へ賑やかに入って来た伸子たちに鈍重なようで鋭い一瞥をくれたこの男の感じは、瞬間に、ワルシャワのあの朝伸子が理解していなかった多くのことを理解させた。テーブルへ運ばれて来たココアをかきまわしながら、川瀬はほんのちらりと片方の眉を動かして、伸子たちに合図した。
ココアをのみ終ると、川瀬と素子とがタバコを一服して、三人はそこを出た。
「わかったろう? この辺は到るところに、ああいうこぎたない眼だの耳だのがばらまかれているんだ。でも、このごろは連中も楽じゃないのさ」
川瀬はおかしそうに結んだままの口をひろげて笑った。
「あれ以来、連中はうっかり労働者住宅の窓の下なんか、うろつけないことになってしまったんだ。水はおろかもっと結構なものまで浴びなけりゃならないからね――あのとき子供まで見さかいなく怪我させたんだから、女連だって勘弁しやしないさ」
ベルリンへ来た翌日から伸子と素子とは、一日に一度は市内のどこかで川瀬勇、中館公一郎そのほか二三人の青年からできているグループと会った。川瀬や中館は、伸子たちの住所も、およそのつき合いの範囲も知っていた。