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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ベルリンにいる医学関係の人々の間に木曜会というものが組織されている。そこで伸子に、ソヴェトの見聞について短い話をしてくれるように、というのだった。

伸子は、こまって、返事を保留した。そして、川瀬や中館に相談した。

「津山って――軍医じゃないのかい」

大きな眼玉をもっている川瀬がその眼玉をギョロリと動かしながら、中国の青年と見まがうような長身をねじってかたわらの村井とよばれる青年にきいた。

「さあ……知らないんだ」

伸子も、医学博士津山進治郎としてしか知っていなかった。

「毒ガスの研究か何かやっている男で、そんな名をきいたように思うんだが――相当がんばるって、誰かが云っていたように思うんだが……」

「――ことわっちゃおうかしら」

教室から抜け出そうとたくらんでいる女学生のような顔つきをして伸子が云った。

「話はにがてだから、わたしはことわることが賛成なんだけれど」

そのときまで黙っていた中館公一郎が、

「お話しなさい」

濃い眉に重って一層太くまるく見える黒い眼鏡のふちの中から伸子を見て、はげますように云った。

「あっちの話はね、ききたいっていうものには話してやるのが功徳なんです」