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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そう結んで、また一二秒だまった。が、ぽつんと、
「わたくしの話はこれでおしまい」
一つお辞儀をして伸子は席に復した。
三四十人ほどの聴きての間から、儀礼的でない拍手が与えられた。あきらかに、伸子の話は、自然さといきいきした事実とによって、ききてに人間らしい感銘を与えたのだった。
「や、御苦労さまでした」
色の黒い太い頸に、うすくよごれの見えるソフト・カラーをしめた津山進治郎が立って挨拶した。
「具体的で、得るところがあったと思いますが、例によって、どうぞ諸君から自由に質問を出して下さい」
伸子があんまり素人だから、専門家であるききてとしては、かえってききたいことがないのだろう。ややしばらくはタバコの煙があっちこちからあがるばかりであった。その沈黙をやぶって、伸子の右側にいた六十がらみの人が、チョッキの前でプラチナの時計の鎖をいじりながら、
「どういうもんかね、これで。――いまの話で、社会的な面はどうやらわかったようなもんだが」
と、そこへ伸子にわからないドイツ語をさしはさんで、
「そっちの方面は低いんじゃないのかね」
臨床の大家といわれる医者によくあるように少し鼻にかかった声でゆっくり、じかに伸子に向うというのでもなく云った。