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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
この額の四角い半白の人は、伸子が話しはじめたときから終るまで、腕組みをして椅子の背にもたせた顔を仰向けたなり目をつぶっていた。
「どうですか、佐々さん」
幹事の津山が、伸子には横柄に感じられたそのひとの間接の質問をとりついだ。
「あっちの、医学そのものとしてのレベルは、どうです? 現在はやっぱり相当のものだと思いますか」
「――?」
伸子はのみかけていた番茶の茶碗をテーブルの上において、顔の上に意外そうな表情をむき出しながら津山から一座の人々へと目をうつした。
「わたしにそんなことをおききになるなんて――ソヴェトの研究や発見の報告はいつも世界の学界へ報告されているんじゃないでしょうか――ドイツの医学雑誌では、ソヴェトのものはのせないことになっているのかしら――」
伸子は、この言葉の皮肉な効果を全く知らずに云ったのだった。
音楽の都のウィーンでは、ソヴェト音楽をしめ出していた。ドイツでの学会というようなところでは、似たようなことがあり得ないことでもないと思ったのだった。ところが、伸子の単純な問いかえしに答えて発言する人は誰もなかった。みんな黙っている。その黙りかたが何だか妙だった。