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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

と云った。

「どっかへ行こうじゃありませんか」

「――ビールでもいいのかな」

「いいさ」

「佐々君はこまるんじゃない?」

川瀬勇が、青年らしい気くばりでわきに立っている伸子をかえりみた。

「今夜は、佐々君が主賓なんだから」

「いいわ、何かたべられるところなら。――わたしおなかがすいちゃった」

さもあろうという風にみんなが笑った。伸子たちをいれて六人ばかりのものは、ベルリンの白夜とでもいうように薄明い夜の通りをぶらぶら歩きだした。

同じベルリンにいる日本人と云っても、この人たちと、今伸子たちがそこから出て来た日本人クラブの奥の室にいた連中とは、何というちがいだろう。年齢や職業がちがうばかりでなく顔だち、身なり、気分、住んでいる世界ががらりとちがっているのだ。

六人の日本人がやがて腰をおろしたのは、繁華なクール・フールステンの通りの近くでベルリンでもビールがうまいので有名な一軒の店だった。カフェーよりも間口がひろびろとしていて、そのかわり奥のあさい店は三方に煌く鏡の上に賑やかな店内の光景を映している。

一隅にテーブルを見つけてかけた伸子たち一行の前へ、ガラスのビールのみになみなみとたたえられた美しい琥珀色の液体がくばられた。