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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

十

木曜会で伸子が小講演したあと、素子と二人が誘われたセント・クララ病院とベルリンの未決監病舎の見学は、どちらも全く官僚的な視察だった。セント・クララ病院は婦人科専門で、レントゲン設備が完全なことと、その医療的効果の高いことで知られているということだった。二十人ばかりの男にたった二人の女がまじっている日本人の視察団一行に応対したのは、六十ばかりの言葉が明晰で快活な尼だった。糊のこわい純白の頭巾が血色よく健康そうな年とった女の顔をつつんでいて、黒衣の上に長く垂れている大きい金色の十字架を闊達に揺りながら、一行を案内し、説明する動作には、現実的な世間智と果断さがあった。いかにも尼僧病院らしく、レントゲン室の欄間も白い天井をのこして、白、水色、紫の装飾的なモザイックでかこまれていた。伸子たちは、素人らしくそういう外観のドイツ趣味にも興味を感じ、おのずからモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の病院を思いくらべて参観するのだったが、木曜会の医者たちは、専門がちがうのか、それともセント・クララ病院のレントゲン室が噂ほどでなかったのか、質問らしいまとまった質問をするひともなかった。