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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
どんな力で彼はその境遇から身をふりほどくだろう。
あくる日、プラーゲル広場の角のカフェーで川瀬たちと落ちあったとき、伸子はドイツ銀行の人ごみの間で見かけた笹部準之助の息子のことを彼らにはなした。
「ああいう人はあなたがたと、ちっともつき合わないの?」
「――まあ別世界だね」
大きい眼玉をうごかして川瀬勇が返事した。
「ああいう連中は、どこへ行っても、ちゃんと、とりまきってものがあってね。――いわばお仕着せの人生なんだ」
「そんなもん、蹴っちまったらいいじゃないか、ばかばかしい」
むっとした口元で素子が云った。
「かんじんのおやじは、牛鍋が御馳走で、あれだけの仕事をのこしたんじゃないか。そのことを考えりゃいいんだ」
「子供の時分から、何のかの、とりまきに馴れて育ったものは、やっぱりそれがないと淋しいんだろう。それに、はたもいけないさ、てんでに目下俗人に堕しちまっているもんだから、あの顔をみると、いやにセンチメンタルになって、笹部準之助の作品をよんだ自分の若かりし日を回顧する気になったりするのが多いんだから。それが所謂相当の地位にいるからなお毒なのさ」
ベルリンには、伸子や素子のように、短い滞在の間、あれにも、これにも触れようとしているもののほかに、また、ドイツ銀行の人ごみで偶然見かけてもう二度と会うこともなさそうなこういう