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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十三
十三
雨の夜で、伸子が窓ぎわに立って外の往来を見おろしていると、レイン・コートを着た男と女のひと組が、むこう側の歩道をいそぎ足に通りすぎて行くとき、ネオンの光が、おもやいにさしている濡れた雨傘の上に赤々と流れた。
クリーム色と緑の配色で壁や椅子が飾られている下宿ルドウィクのその室に伸子は一人で、テーブルの上に「戦旗」の旧い号が二冊ひろがっている。伸子は、初めてその雑誌を見た。一冊の表紙にはソヴェトの石油工場らしい写真が、もう一つの方には、外国の鉱山夫らしい男が片手に安全燈のようなものをぶら下げながら笑い顔でこっちへやって来る写真がつかわれている。全日本無産者芸術連盟機関誌として去年のなかごろから発行されるようになったその雑誌には、伸子がこれまで日本の雑誌で触れたことのない新鮮さと、国際的な触手と、闘争の意志があふれているのだった。川瀬勇が「戦旗」へ、伸子もなにか寄稿するようにと云ったとき、伸子ははじめてその名を知った。
「ほう、見たことないの。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へは送ってるのかと思っていた。――こっちのリンクス・クルフェ(左翼曲線)みたいなものだがね」