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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
これまでのとおり自分の小説の世界へおちつけず、それならばと云って、自分を何に表現していいか分らないようなところのできた伸子として、伸子は、ベルリンに来ているのだった。
ルドウィクのベルリン風に清潔だが情趣にとぼしい室のなかで、雨の降る夜の街を窓の下に眺めながら、伸子は、テーブルのまわりをぶらついていた。小林多喜二という人の「一九二八年三月十五日」という小説は、連載の一部だった。その小説には、ほかの作品にない骨格の大きさが感じられ、人間の心と体の動きのあったかく重い柔軟さもにじんでいた。闘士龍吉の妻であるお恵が、スパイをいやがり、残虐な横柄さをきらい憎む感情の描写が、伸子に共感された。お由も伸子にわかり、会社員佐多とその母親の素朴で真情のある描きかたは、この小説の背景となっている北の国のどこかの港町に生きている人々へ伸子を結びつける。でも、どうしてこの小説にはこんなにビクビクとかモグモグとかネチネチ、モジモジ、ウロウロという表現がばらまかれているのだろう。手数をいとわず、そして実感をもって描写されている小説の他の部分とくらべて、伸子にはそれが不可解だった。