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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ところが増永修三は、伸子のためにマルセーユまでの切符をととのえて届けるというとき、
「ほんとうは、僕もお出迎えに行かなけりゃならないところなんでしょうが、手のはなせないことがあるし、御婦人だから、却ってお邪魔だといけませんし……」
とつけ加え、世間で秀麗と云われるような顔で笑った。なにげなく礼をのべてあいさつしながら、伸子は、彼の小さい笑いに傷つけられた。単純に、失礼します、と云われた方が伸子としてはこころもちがよかった。フランスで、言葉の自由でない若い伸子に日本の封建的なしきたりを口実に、女だから、男のつれは迷惑だろうというのは、すじが通らず、女として侮蔑された感じだった。伸子が気づまりでないようにという親切があるなら、別の座席で、伸子に関係なくマルセーユまでゆくこともできないことではないわけだった。
社交人らしく、自身のスマートさを大切にしているらしい増永とすれば、マルセーユで船からぞろぞろとあがって来る佐々泰造はいいとして、多計代、和一郎、小枝、つや子という一家総勢の姿を想像しただけで、その相伴にあずかるのは気の毒な自分を感じるのだろう。
佐々の一行が家じゅうでパリへ来る、ということのなかには、たしかに誰の目にも何か度はずれなところがあった。