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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ホテル・ノアイユへ着いてひと休みし、和一郎と小枝とが自分たちの室へひきとってゆくと、多計代はそれを待っていたように、
「お父様、すみませんが、あれを出して下さいまし」
と、泰造に云った。そんなにいそいで出さなければならないあれというのは何だろう。伸子はそう思って、泰造が背広の背中をこちらに向けて、黒皮のボストン・バッグをあけるのを見守っていた。泰造は、銀色っぽい錦のきれで包まれた小型の壺の形をしたものを両手の間にもって、そこに立ったまま、
「どこへ置くかね」
クリーム色のびろうどで張られた長椅子の上にいる多計代にきいた。
「さあ」
多計代は、港町のホテルらしく華美に飾られている室内を見まわしていたが、
「すみませんがそこへ置いて下さいまし」
鏡のついている高い炉棚の前をさした。それは多計代がその上に半ば横になっている長椅子の後方だった。泰造は、多計代のたのみのままに、銀色の錦の包みものを両手で、恭々しくそこにのせた。
伸子は、唇の色が変ってゆくような気持になった。それは保だということがわかったのだった。その銀色の錦のきれにつつまれた小箱は保の一部分なのだ。