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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「おかあさま、うれしい? サンドウィッチだから」

昼間のいろいろなことであんなに伸子を傷つけた、そのひととは思えないうれしさのあふれた眼つきで、多計代は大きい白い枕の上で、頭をあっちに動かして、いくらか汗っぽい下の娘の十三歳の顔を眺め、こんどは頭をこっちに向けて、さっぱりしたうちにも、表情の成熟して来ている三十歳の伸子の顔を見た。そして、伸子がきかえた薄黄色地に小花模様の両腕の出る寝間着を、

「かわいくて、いいこと」

とほめた。

「それにしても、よく吉見さんが伸ちゃんを一人でよこしたね」

そんなことを云っている多計代はほとんどあどけないようで、一つ枕の上に並んだ多計代の髪が前髪をつめられ、八分どおり白くなっていることも、そこに不手際に黒チックが塗られていることも、伸子の心を動かすのだった。若いうちから最近まで多計代の御自慢だった、顎から喉へかけての柔かくゆたかな線がやせたためにゆるんで、喉に、年よりらしい二つのすじが立って見える。多計代の柔かな顎の下へ伸子は顔をおしつけた。伸子は小さな声で、

「やっぱりおかあさまのにおいがする」

と云った。

「何だろう、この人ったら。