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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
困ったように、秋山は大きい眉の下の小さい目をしばたたいていたが、
「やっぱり出なけりゃなりますまいね」
ほかに思案もないという風に云った。
「モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にいる民間人と云えば、われわれぐらいのものだし……何しろ、想像以上にこまかく観られていますからね」
ドーリヤのいるところで、秋山は云いにくそうに、云った。そして、残念そうに内海を見ながら、
「うっかりしていたが、そうすると、レーニングラードは三十一日にきり上げなくちゃなりますまいね」
秋山は国賓としての観光のつづきで、レーニングラードのВОКСから招待されているのだそうだった。
四階の自分の室へ戻る階段をゆっくりのぼりながら、伸子は、このパッサージというモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の小ホテルに、偶然おち合った四人の日本人それぞれが、それぞれの心や計画で生きている姿について知らず知らず考えこんだ。素子も、随分気を張っている。秋山宇一も、何と細心に自分だけの土産でつまった土産袋をこしらえようと気をくばっていることだろう。秋山宇一は、日本の無産派芸術家である。その特色をモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で鮮明に印象づけようとして、彼は、立場のきまっていない伸子たちと、あらゆる行動で自分を区別しているように思えた