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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
わかりやすい字をひろってやっとあらましの意味をつかめる「リュマニテ」の紙面からは、伸子を緊張させずにおかない響がつたわって来る。それを感じない人々にとっては一つの国際的な些事のように、しかし、その意味を実感するものにとっては重大な信号をもって、さりげなく、だが不断の注視をもって資本主義の国々の視線が一つの国境に集中されつつある。ロシア革命の歴史については乏しい伸子の知識のなかにさえも、デニキンという名がある。コルチャックとウランゲルの名がある。革命のロシアへなだれこんだこれらの白軍のうしろに、帝国主義国のいくつかの国旗がはためいた。日本は東洋の番犬である任務をはたして、それに対するおこぼれを期待してシベリア出兵をした。
伸子は、自分のなかに生きている国境がみだされようとしているのを感じるのだった。その国境は冬空の下に果しなくひろがり、半ば蒙古風だった。伸子がそこを通過した日は北風が吹いていた。一人の蒙古の男が線路沿いの淋しい野道を歩いていた。防寒帽の耳覆いのたれを北風にふきちらされ、蒙古服の裾を足にからむほど煽られながら。その男のわきについて、精悍な黒い蒙古犬が二匹駈けていた。