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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

然らば、犯人の残した唯一の足跡とは何か? これは犯行の順を迫うて自然に説明いたすことと致しまして、先ず犯人の名前から申しあげます」

一座の緊張した動揺も、巨勢博士があんまり事もなげに平然としているので、すぐ、しずまった。巨勢博士は神山に向って、

「先ほどもおききしましたが、内海殺しの最も不可能な方々は?」

「あやか夫人、土居画伯」

巨勢博士はうなずいて、

「左様、土居画伯は先ず最も不可能です。なぜなら、同一位置に絶えず喚きつづけていたのですから。そして、その位置は皆様の扉を見晴らし、その出入を見晴らす絶好の位置でもありました。もし皆さんのどなたかが扉から顔をだせば土居先生は喚きつつ掴みかかるに相違ない。なぜならば、そうすることによって皆さんを居室に封じ、その間に他の何人かに内海さんを殺させる必要があった。つまり土居先生は自己のアリバイをつくりつつ、同時に更に重大な役割、つまり監視の役をつとめておられたのです。そして、土居先生の巧妙な監視に掩護されつつ、あやか夫人は居室を忍びでて階下へ降り、内海さんをメッタ刺しに刺し殺して帰られた。土居先生の監視の掩護がありますから、あやか夫人はきわめて落付いて、短刀を洗って処理し、血にぬれた手足を洗い、悠々と居室へ戻ってこられた。