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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

慌てて寝台の下へもぐる、宇津木さんがやってきて、再び戻られた時に、王仁さんの心臓めがけて一撃のもとに刺殺する。短刀の指紋をふき去り、寝台の下を王仁さんの上衣でキレイにふいたのは、ゴミの上に残った跡で身長などが分る恐れがあったからでありましょう。そしてキレイにふいた上へ、わざと、あやか夫人の部屋靴の鈴の一つを置いてきました。これこそ類い稀れな犯人の狡智の手段でありまして、この置き残された鈴一つに、歌川一馬先生を自殺の形で殺す時の用意がこもっていたのです」

さすが冷静な巨勢博士も、はじめて、いささか顔に感動をあらわした。意味は異るにしても、芸術を味う人の感動に似ていた。

「御承知のごとく、その夜、あやか夫人は一馬先生と一室に寝ておられました。おまけに一馬先生は午前三時ごろまで、机に向っておられた。愛妻はその間ズッと目の前に寝ており、つまり、当夜アリバイのある唯一の人はあやか夫人でありました。もとより、このアリバイは夫と妻との関係にある人の証言でありますから、警察当局はこれを疑るかも知れず、その意味に於てこのアリバイは必ずしも成立は致しません。然し、天地にただ一人、一馬先生その人だけは、あやか夫人の歴然たるアリバイを信じて疑うことが有り得ぬのです。