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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

「お袖に会わせてやる約束だったが、七面倒くせえから、駕籠やに酒代をくれて、途中で撒いて来てしまいました」

「可哀そうに、会わせてやれあいいに。……何も、おれに遠慮はねえんだぜ、阿能」

「でも、会わせずにすむものなら、刑部様だって、やっぱり会わせたかあねえでしょうに」

「なに。そうとも思わない。ぶつけ合してみたい気もして、連れて来るなら来いといっておいたのだが。……まあ、どうでもいい。とにかく、図面はおれが預かっておく。何かの相談は、ゆっくり後のことにして」

「じゃあ、たしかに」

「うむ、受け取った。……おや。また土蔵の二階でピイピイ泣いているらしいが、阿能、この間、てめえが背負いこんで来たあれだけは、余計もんだったなあ」

「まさか、お犬小屋へ持ってゆくわけにもゆきませんでネ。そのうちに、里子へでもやってしまいましょうよ。何だって、人間の子になぞ生れやがったか。犬ッ仔にでも生れればよかったろうに……」

二人は、廊下窓から土蔵の方をながめていたが、すぐ元の広間へ姿をかくした。

市十郎は、小部屋の蔭から這い出した。そして、二人が立った窓口へすがりつき、墓場のようなここの裏庭を見廻した。