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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

市十郎とお袖のまわりに六、七名もの顔が、屏風囲いになり、その中に、一きわ幅の広い顔を持った主の化物刑部の眼が、市十郎の姿をとらえて、またたきもせず見ていた。

「阿能。――こいつか、市十郎というのは」

「そうです。どうしてここへ来ていたか」

「まあ、いい」と、刑部は大きくゆるすような頷きをして――

「ひと目見たら、気がすんだろうし、かえって、これで片づいたというものだ。……おい」

と、うしろの連中をふり向き、顎を上げて、いいつけた。

「こいつを、つまみ出せ。二度と、寄りつかねえように」

それからの狼藉は、お袖にも見ていられなかった。市十郎はたちまち連中の私刑にかかった。土蔵梯子を引きずり降ろされ、外へ出てからも、ふくろ叩きの目にあった。そして裏門か表門かわからないが、とにかくこの荒れ屋敷から正気もなく突き出された。

それから。どれほどな時が経ったか――彼には、はっきり意識がない。

……ふと、気がついた。

われに返ってみると、自分は、真っ白なものの中に俯ッ伏していた。白いものは、手も袖も胸も埋ずめていた。身をうごかすと、髪の毛からも肩からもサラサラ落ちた。すべて、真っ白なものだった。