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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「はい。わかっております。……どうも、相すみません」
姿も姿だが、声も、まるで女である。幾度も、頭を下げているものの、あとへ帰る様子もない。
由と庄七は、顔見あわせた。もしやと、握りしめた六尺棒の力も抜け、なアんだと、急に除かれた恐怖と緊張が、反対なおかしさをつきあげた。
「おい、おめえは、蔭間屋の色子じゃねえのか。身装で分らあ、蔭間だろう、おめえは」
「はい、左様でございます」
「身装もいいし、縹緻も美い。まさか、野天の辻野郎でもあるまいに、何だッて今頃まで、町をうろついているんだい」
「ええ、もっと宵の内に、帰らしていただくつもりだったんですが、浜町まで送って行ったお客様に、またおやしきでひきとめられ、お酒をのませられたりなぞしていたものですから……」
「客を送って行ったのか。駕籠でも貰って帰ればいいに」
「まさか、お屋敷のお駕籠で、蔭間茶屋へ帰るわけにもゆきませんし」
「先は、御大身なのか」
「お名前は申しあげられませんが、立派なお下屋敷もあり、御家来衆もたんといて、歴乎とした……」
「はて、誰様だろう」
「それだけは、どうぞ、訊かないで下さいまし……。後生ですから」