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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

「よせよ、人の手にしなだれ掛ッたりするのは。……なあ、由、どうしたもんだろう」

「お兄さんからも、おねがいして下さいよ。もう夜明けにも、間がないことでしょ」

「庄七。こいつあ、おれにも、手がねえや。おめえの方が、惚れられているらしいから、いいようにしたがいいや」

由は笑って、木戸の端から端を、行ったり来たり、六尺棒を突いて歩いた。

「弱ったなあ」と、庄七は、油障子をあけて、中をのぞいた。そして、

「おい、吉弥。そこでよければ、寝てゆきねえ」

と、炉の掘ってある土間の隅を指さした。炉には、自在鉤に大薬缶が懸けてあり、隅の空箱の上には、さん俵が敷いてある。

「おお、暖かそうな……」

と、吉弥はよろこんで、それへ腰をかけ、板の間の框にもたれて、すぐ眠るような姿を取った。

庄七は、六畳の方をのぞいて、何かいっていたが、女房のおたつは、乳のみ子を抱いて、もう性もなく寝くたれていた。

「夜明け前は、寒いからな、これでもかけて……」と、庄七は、壁の合羽を外して、吉弥の体へ、そっとかけてやった。――その時、ふと、吉弥の腰に、葵紋をちらした高蒔絵の印籠が、燦と、提がっているのを見て、