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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「各にも、日頃、お世話になったが、山本左右太は、きょう限り、お奉行からおいとまを申し渡された。……どうも、名残りおしいが、ぜひもない」
「えっ。免役になったのか」
「うム。当分、ぶらついているつもりだ」
「どうしたのだ、いったい。――何か、お奉行のお気もちによほど逆らいでもしたのか」
「逆らわずにおられんからな」
「……どうして」
「貴公たちは、南の不評を、世間で耳にしないか。――いやもう、いうのはよそう。さんざん越前守様へ、面を冒していったことだ。善言耳に痛しの喩えで、容れられなければ、身を退くのが、古今の通例。……各も、せいぜい、善言は慎み給え。じゃあ、またいつかお目にかかろう」
左右太は、同僚に鬱憤まじりの別辞をのべて、やがてひとり通用門から立ち去った。
「あの足で、またすぐ石焼豆腐へ寄るんじゃないか」
同心のひとりがいうと、たれもが、そう思ったことらしく、みな笑った。
目安方の小林勘蔵を通じて、越前守から、山本左右太の解役が、各役部屋へ公表された。
行状、粗暴放埒ニ依リ――という理由だった。
たれも、ちか頃のかれを見ては、不当なる免職とおもえなかった。