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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

揚屋牢、百日牢、重罪牢――猛獣小屋のような棟が、幾側にもわかれており、路地はひろく、長屋と長屋との向いあわせの間には、所々に、牢番小屋が建っている。

「や。お奉行さまが」

と、ここの獄吏たちは、めったに見ない人のすがたに、何か、恐怖的な目をしたり、うろたえたりした。

「亀次郎の牢は」

かれのあとには、勘蔵と左右太が、従っていた。牢番頭は、

「こちらで」

と、恟々として、先に立つ。

吠えるので、他の牢長屋とは、まったくかけ離れた一隅にあった。

うしろは藪。前には、雑木が五、六本。あたりは、乾からびた、土しか見えない。

「ここか……」

「左様でございます」

「しずかだのう。落着いたか」

越前守は牢格子の前へ寄った。外はまだ、夕明りが、ほのかでも、牢のうちは、まっ暗である。

むくむくと、何か、闇にうごいた。

燈下の一品

「だ、だれだっ。覗いていやがるのは」

大亀は、床板から、半身を起して、じいっと、眼だけを光らした。

そして、ず、ず……と少しずり寄って来たかとおもうと、

「やっ、ち、ちくしょう!」と、いきなり牢格子へ、がりっと、噛みつくように、口を当てて来た。

「越前だなっ。