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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
熱がたかい」
笑いながら、楽翁は出て来た。そして、薬を取りに来いと告げて、牢番頭を伴って、役宅の一間へもどった。
調剤を渡し、手をそそぎ、
「お奉行は」
と、義平太に、たずねた。
「奥で、お待ちしておられます」
「ちょうど、近日、お目にかかりたいと思っていたところ。折入って、暫時、お会いいただけるかと、お伺い申してくれい」
やがて、さしつかえないとの返辞が来、こんどは、小林勘蔵が、案内に来た。
従いてゆくと、越前守の私室。それは、かれが時折、ただひとり、忙中の閑をぬすんで、黙想にこもる奥まった小部屋であった。
「用があったら呼ぶ。みな、休息して、与力部屋へ、退がっておってくれい」
越前守も、こよいは、かれと自分とだけで対坐して、何か、はなしたい一宿題をもっているようなふうだった。
「さ。楽翁どの。くつろごう」
「終日。おつかれでおわそう。くつろがせていただきます」
敷物をとり、それに、ぺたと膝をのせて、楽翁は、小さい床の間へ眼をやった。
慈眼視衆生 同苦和尚之語
と、細軸の一行書が懸かっている。
「ほ。どなたの書で」
「おはずかしい。自分の手習いです」
「同苦和尚とは」