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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「やはり、北町奉行の輩が、越前を追い陥すため、誇大にいいふらしおるせいか」
「いやいや、左様ばかりでもございませぬ。越前自身が、敢て、自分の過去を、つつもうともせず、飽くまで、事件の真相を、洗いたてておるからでございます」
「さすれば、かれ自身、失脚するのみか、ふたたび世に出ることはできまいに」
「法の正明を守るためには、失脚などはおろか、おそらく、死を決して、当っておるものと思われます」
「おそろしい奴のう……」と、苦笑しながらも、何か、内心の焦躁を、眉にたたえ、
「――藪八。よくないな」
「何がでございますか」
「老中どもや、寺社奉行などの噂を通じ、それとなく、吉宗の耳へ、越前の過去の非行を、大げさに伝えてくる者は、常に、越前を功名争いの敵としておる北町奉行の輩と思わるるが」
「御明察のように思われます。が、その辺のこと、まことに微妙で」
「……と、いたせば、左様なことで、かれらに凱歌をあげさせるのは、役人根性の助長というもの。後々の、弊害も大きい」
「てまえも、心をくだきおりますものの、何せい、明らかな、事実があるので」
「藪八は、智者ではなかったかの。……頼もしからぬ奴ではあるよ」