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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
(やはり、あんな下々の修行も、おやりになっておいてよかった)
と、自分では確信しており、吉宗もまた、少しも悔いているふうはない。
そんな下世話の世界のことは、まるで覗いたこともないような顔して、吉宗は、むしろ従来のどの将軍家よりも厳格で豪毅一点張りのごとく臨んでいるが――どうかすると、たった二人きりの、例の吹上の庭などで、ふと思い出ばなしが出ると、
(……藪八。もういちど、行ってみたいな)
などと戯れることがある。
藪八も、戯れ半分に、大げさに、手を振って見せ、
(いけませんいけません。もう、生れかわっておいでにならぬ限りは、とても、いけません)
大真面目にいって、ひそかに、笑いあったりする、主従だった。
――こういう、因縁つきの主従なので、吉宗に附するに、彼の隠し目付は、たしかに適役にちがいなかった。そして、今度という今度の事件に当っては、いよいよもって若い頃、君臣一致してやっておいた極道の妙が、実際政治の活用のうえに、大きく役立っていることを、吉宗も感じているだろうし、彼も内心、ムダではなかったと、ひとり得意に思う程だった。
――それは、さて措いて。