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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

……あとで、脈を診て、煎薬でもやっておいて欲しい」

「やれやれ、病人ばかり出る。今に、こっちも、病みつきそうじゃ」

「きのうは、赤坂のやしきを見舞われたか」

「うム。越前どのの小さい息女(次女、園子)もまだ癒えぬうちに、こんどは御内室のお縫様が――なんとまた二、三日前から大熱じゃ」

「え。奥がたも、病床か」

「聞けば、むりもない次第じゃ。お奉行どのは、あの御気性ゆえ、御家庭に帰っても、一切、公務については、おくびにも、家人にお話しになるようなことはないらしいが――ここ幾月となく、何となく、家にあっても気色のすぐれぬ良人の容子に――奥がたのお縫様にも、いつか、こんどの事件を、お知りになったものらしい」

「さもあろう。妻として」

「あいにく、この春以来、末の息女が、風邪とも、麻疹ともつかぬ御病気。その看護に、お疲れの上に、良人の大難と聞かれて、先頃から夜ごと、水垢離とって、神信心など、なされたものらしい。そこで、親子そろって、枕をならべておる始末じゃ」

「越前どのは、毎夜、やしきには、帰っておられるか」

「いや、ここ十数日も、役宅に泊りづめで、おやしきへは、戻っておらぬ。