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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

引ッ立てよう」

「では、貴公、ひと足さきに、奉行所へ駈けて、お奉行と、勘蔵どのに、報らせてくれい」

「心得た。……だが、一人でよいか」

「案じるな、早く行け。――こうなれば、寸時も早く、お奉行のお耳へ入れたがいい」

「じゃあ、先に」

と市川義平太は、深夜の底を、走りに走った。

数寄屋橋御門をはいる。また、奉行所の西門の潜りを通る。幾棟もの暗がりを、うねり曲がると、一つの窓に、うす明りがさしていた。

脇玄関をあがり、そこの役部屋を、そっと覗くと、まだ起きて、何かの吟味書を調べていた小林勘蔵がふり顧った。

「おう、義平太。どうした」

「……め、めし捕った。お奉行は、こん夜も、役宅にお泊りだろうか」

「宵に、一睡なされたようだが、また起き出られて御書見の後、お客と、お話しになっておられる」

「こんな深夜にお客とはいぶかしい。たれだ、それは?」

「いやいや、お客の見えたのは黄昏だが、妙な客で、夜半に起き出し、それからお話がはずんでいるのだ。……見たこともない、旅の老僧だ」

「ともあれ、お袖を召捕ったむねを、すぐお耳に達したいが」

「義平太。……やったか」

「うム。おたがいに、覚悟のときだぞ」