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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

見えないのは、病妻のお縫と、乳のみ児だけだった。

が、越前守は、すぐ、何より先に、その妻子を、一室に見ていた。いや、二月ぶりの自分を、お縫に見せていた。

「……お帰り遊ばしませ。お出迎えもいたしませんで」

お縫は、寝ぐせのついた髪をやや整え、寝床を降りて、手をつかえた。その手の細さ、襟あしの衰え、良人の眼は、正視するに苦痛であった。

「縫。……寝ておれ、無理するな。ささ、寝むがいい。枕元でゆるりとくつろごう」

「いいえ、きょうは、気分もよろしゅうございまする。思いがけないお帰りで、子どもたちも」

「オオ、離れはせぬ」

と、両膝に、雪子と求太郎をかかえながら、

「御用のため、そなたの病を、見にも戻れず、淋しかったであろ」

「なんの、お役儀のためですもの……。お町奉行の妻ともなれば、いたし方もございません。それよりも、お留守の家を、御安心して、御用にお尽し遊ばすようにもできず、私の不つつか……おゆるし下さいませ」

妻は詫び、良人も詫びた。

お縫は、つとめて、ほほ笑みを作り、どうして、久しぶりの良人を慰めようか、自分も、楽しもうか、そぞろ、病の篤いのも忘れて、

「雪子も、求太郎も、さだめし、うれしいことでしょう」