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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

大亀はすぐ寝そべッた。

頬杖ついて、家の中を見まわしていたが、やがて、飯ができると、悠々と掻ッこんで、

「久助、こんな物はもう洗わなくッてもいいや。それより夜逃げ屋を呼んで来い」

「何だい、夜逃げ屋というなあ」

「道具屋だよ。どこかそこらに、古道具屋があるだろう。ぐずぐずしてると、てめえも、お犬小屋一件の御用風に抱きこむぞ」

味噌久を脅して、古道具屋を呼ばせ、世帯一式、付け値の七両二分で、売り払ってしまった。

そのうち、二両を、味噌久へ渡して、

「これだけやるから、てめえはこれを持って、市の字の体を、遊び風呂の丁字屋から請け出して、どこへでも潜りこめ。――おれはおれで、もう少し、草鞋をはいて、一行脚やってくる。何しろ、まだまだ、お犬小屋一件の下手人が出ねえてンで、町奉行は血眼らしい。たのむぜ、久の字」

風の如く、大亀は、町の辻に、彼を捨てて、その姿を消してしまった。

久助はすぐ丁字屋をたずねた。

市十郎は、裏二階から首をのばして待っていた。大亀とおもいのほか、久助が来て、しかもその背に、わが子が負われているのを見て、ぞくと全身の血を凍らせたふうである。