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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

ひとは、それとも、気づかないが、清盛には、観えてならなかった。

盛遠だけは、自分の一身上の秘事を知っている。それがあるので、清盛は、つい、盛遠の挙止言動に、ひとより細かい眼をそそぐようになっていた。かれの、粗暴で矯激な性情と、ゆたかなる学才とが、のべつ一個の中に取ッ組んでいて、盛遠自身、自分をもてあましているような風が、いつも、はらはらながめられる。

わけて、その盛遠が、渡と、同席のときなどは、ふと、盛遠の眼底に、卑屈めいた、実に、小心者のするような、いやな光が、うごいたりすることがある。そのくせ口では、剛愎なことをいう男がと、清盛には、ふしぎに絶えないおりがままあった。だが、近ごろの盛遠の眼のにごりや、ほお骨のとがりかたから察して、多分、過度な勉学のため、神経病にでもかかったか、あるいは、酒の飲みすぎのためか、――などとひとり答えをつけていたものである。だから、ひょっとしたら、主の渡も、好まぬ人物として、あえて招かなかったものかもしれない。

清盛は、そう考えて、自分にしても、余り思い出したくない男と、触れないことに、きめていた。

酒がまわると、客は、それぞれな個性を露出した。