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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

個性はまちまちでも、ときを得ぬ野性の地下人たることと、不平の吐け口の見つからない悪童どもであることだけは、一色であった。

『おい、主殿。もうそろそろ現われそうなものじゃないか。焦らすなよ、余りには』

『なにを? ……』主の渡は、佐藤義清のまえにすわって、銚子をすすめながら、そら耳に答えたまま、なお義清とむつみつづけていた。

静かで、杯盤も取りみださず、ひとりつつましやかな客は、佐藤義清だけだった。杯を唇にふくみながら、その義清が、主へいうには。――かつて上西門院の御歌会にうかがったおり、袈裟どのの歌も選に入って、よそながら歌の上では、早くから袈裟御前のおん名は存じあげている。人妻となられては、なかなか和歌の道に、かかずらってもいられますまいが、惜しい御才能です。せめて歌の会ぐらいには、せいぜい、出席させてあげてください。おたがい、武弁の輩に、もっとも欠けているのは、文事を解さぬというよりは、軽視の風が先に立つことです。その点で、武夫文妻は、松に添えて菊を描いたような画趣ともいいましょうか、めでたいお契りです。……羨望にたえません。連中がああして、嫉いているのも、理由のないことではありませんよ。