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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『いや、秋の月よりは、厨の月をこそ、われらは見たい。主どのが、召されねば、召されぬもよし――だ。たれぞ、立って、客どもの意を体し、これへお連れして参られよ』

おうと答えて、おもしろ半分に、ひとりは、よろめき立って、台所へ通う渡り廊下へかかろうとした。主の渡は、追いかけて、見せるみせると、連れもどった。客どもは、興に入って、きっと召されるかと、念を押す。――渡はすこしあらたまって、しかし、自分は武者である、わが妻はまた、白拍子や遊君ではない。武者の妻を御見に入れるのだから、そのようにして、いま、会っていただこう。……しばらくお待ちねがいたいと、客どもをおいて、自身、厨の妻へ、告げに行った。

ほどなく、渡は、戻って来て、縁の端に座し、そこから客たちへ、こういった。

『春以来、心をこめて、飼うて来た効があり、御承知の、武蔵青毛の四歳駒。秋にのぞんで、ひと際、駿足の敏をあらわして来たかに見らるる。やがての、仁和寺の行幸には、心ゆくばかり、馳け競うて、春の口惜しさをそそぎ、かたがたとともに、快を叫びたいと存ずる。――まずもって、その青毛が、どのように、良くなったか、御酒興までに、御覧ぜられたい』