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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

しばらくは、ながめていたが、やがて清盛のうしろへ立ち寄り、かれの鎧の背を、一つたたいた。そして、いうことばは、さっきの雑武者呼ばわりよりは、もっと、子どもあしらいだった。

『平太ではないか。何を吐ざいておるのじゃ、何を。……小生意気に』

『あ。……これは』と、清盛も、その人には、青筋を、ひそめた。――とたんに、二月ごろの寒風と、かなしい日の、空き腹や、いまいましい銭などが、頭のうちに、ちらついた。

『叔父上でしたか。……ああ成程、これは叔父上のお手勢ですな。そういえば、見た顔の家人もある』

表面の萎縮とはべつに、内心は、よけいに業腹が煮えた。こいつらは、おれをおれと知って、あしらっていやがったなと、辱を、新たにしたからである。

兵部省出仕の平ノ忠正。この人と、叔母を思うと、すぐ銭の顔が、あたまに泛かぶほど、その堀川のやしきへは、金借りの使にばかりやらせられ、両親のたな下ろしと、いや味と、愚痴の百万べんを、よく聞かせられたものである。従って、叔父の眼にも、貧乏神の餓鬼みたいに、平太が見えるにちがいない。清盛は、そう、ひがんだ。宿命的に、この叔父の前だけでは、人の子の屑みたいにされ、ひがみ者として、置かれてしまう。