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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『なにが、なるほどだ。何がよ……平太。このごろは、ケロリとして、堀川へも、顔を見せんではないか。もっとも、おまえに来られて、一ぺんでも、ろくなことのあった例しはないからの。……ぶさたも、まず、めでたいが』

清盛は、羞恥した。鳥羽院の武者所を負って、堂々と、一人前な男を誇示していた手前にである。穴があれば、はいりたい。

『いけないでしょうか。……どうしても』

面目もすて、意地もすて、甥として、すがってみた。忠正は、ざっと、部下から聞きとって、清盛のねばる目的が、何にあるかを、すぐ看破したらしい。

『いかん。相成らぬ。なぜ、おまえは、反抗するか。忠盛どのも、よう、くそ意地を張る男だが、つまらぬ貧乏性に、おまえも、似るなよ。帰れ』

と、いい放した。それとともに、いかなる貴人の御車を見たのであろうか。あたふたと、上西門院の、門のまぢかへと、大股に歩み去った。忠正はそこで、牛車にむかい、礼をしている様子であった。

清盛は、足をかえした。ぜひない気もちだった。背になお、嘲笑を聞く思いがする。

『……どなたの牛車だろう。いま、上西門院を出て来られたのは』

振りむくと、牛は、こっちへ歩いてくる。