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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

網代廂、花うるしのはこ、轅、車の輪など、金銀のちりばめに、茜しかけた夕陽が映えて、まばゆい女車である。

しかし、内親王のお用いになる糸毛ぐるまでもなし、従者も見えず、ただひとりの牛飼童が、笹を持って、秋の蠅を追いつつ来るに過ぎないので、かれは、杉の木陰にたたずみ、眼のまえを、よぎる牛車の内を、無遠慮に見上げた。

『……あれ?』

たしかに上で、声が聞こえた。簾を巻き、牛を止めさせた。――と、思いがけない人が、外をのぞいて、平太と呼んだ。

『あ。母上……』無意識に、轅の横へとびついて『いま、上西門院を、お出ましになったのは、この車ですか。母上でしたか』

『なにを、いきなりそのように、急きこんで、たずねるのです。いつ会っても、そなたはわたくしへ、なつかしそうな顔もしない』

泰子は、五衣の袿に、いつもながら、艶やかに化粧していた。家で朝夕に見ていたときより、加茂で会ったときより、見るたびに、若くなり、見よがしに、着飾っている。

『つい、そこの御門側で、忠正どのが、あいさつに、待ちもうけていやったが、そなたのことは、何も、いいもしなかった。そなたは、忠正どのと、一つにいたのではないのか』