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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

忠盛は、院でも、大酒家の評があった。人びとはみな杯をとった。清盛も持った。

『――父上』

『なんだ』

『平太も、こよいは、父上の半ぶんほどは、飲んでもよろしゅうございましょうな』

『う……。うム? ……。が、なあ平太』

『は』

『飲むはいいが、六条裏へは、余りには行くなよ』

『やっ! こ、これは意外な』

清盛は、頓狂に、頭をかいた。それがいかにも、初心な肉欲の赤面をあらわしていたので、満座の表情は、どっと、笑いに変った。忠盛も、めずらしく、声を発して、笑った。

(だれが、いつのまに、父の耳へ?)

眼をすら、まごまごと、清盛は、いつまでもてれていたが、これほどいる家人のうち、中には、こっそり六条の遊女町を、のぞき歩いている郎党もいないとは限らない。抗弁は、無益と、かれは急にゴマかしにかかった。

『平六、平六。何ぞ歌え。近ごろ街では、おもしろい歌がはやっている。あれを歌わんか』

『和子様こそ、お歌いなされ。六条裏で、覚えたお歌でも』

『やア、何をいうぞ、父上の戯れ真似などして』

――こうなればもう無礼講だ。無礼講とは、つまり赤裸を見せあう人間講のことである。

突として、末座の方から「このごろ都にはやるもの……」