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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

それは、藤原一門の専横も絶頂期の、法成寺関白道長のころの一社会事件であった。――この世をばわが世とぞ思ふ――と歌った道長の全盛ぶりに対する細民たちの感情を、袴垂が、一個の身に代表して、あんな反抗をやったものと、当時の庶民は、逆にかれを礼賛したものかもしれない。とすれば、藤原閥の命脈のあるかぎり、ここの香華も、絶えないであろう。庶民の迷信は、庶民の祈りの変型といえなくもないからだ。

『たしかに、おれの中にもある。袴垂と似たような血が……』

清盛は、榎の下の赤い灯が、自分の未来を暗示するものみたいに思えて、なんだか、こわくなってきた。――で、急に、立ち去りかけると、

『おい。伊勢ノ平太。さっきから、何を見ていた。榎詣での女の顔でもながめていたのか』

夕やみなので、だれなのかも、よく分からない。はっとするまに、相手は両手をのばしていた。そして、かれの両肩を両手でつかみ、首ががくがくするほど揺すぶった。

『あ。……盛遠か』

『さればさ。この遠藤盛遠を、わすれるやつがあるものか。どうした、おぬし。いやに、呆うけた顔しているじゃないか』

『え、そうか。……まだ瞼が、腫れているか』