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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
ずぼらで、粗いくせに、一面には、竪琴の絃が微風に鳴るような神経がかれにはある。いわんや、父忠盛にあるこのごろの気もちや、こうして、面とむかいあっている時信の心ぐらい、読みきれないかれではない。
(ははあ……)と、解けて、解けない容子もしていられるかれだった。ずるさではなく持ちまえの大まかな顔の徳なのだ。そこで、円座いっぱいにすわりなおして、ひけ目は禁物、大いに飲んで、充分、こっちの人間も見せ、かの女の美か否かも、はらをすえて見るべきだと、ひそかに思う。
姉なる姫は、おりおり、席にすがたを見せては、また、気をもたせるように、ひっこんでゆき。また、いつのまにか、父のそばに、侍っていた。美人とはいえないが、一人前ではある。下ぶくれで、肌理白く、有難いことには、おやじほどには、鼻もとがり過ぎていない。
でも、親の時信には、秘蔵のむすめには、ちがいなく。
『さきほど、泉殿で、見かけられたであろうが、これが姉の姫じゃ、時子というてな。……え? 妹かの。滋子の方は、まだ、まことに、幼のうてな。呼ばせても、ここへ来おるまい。まあまあ呼ばいでもよい』
時信は、こう、ひきあわせたが、心なしか、微酔の眼もとに、老の影を、ただよわせた。