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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

すべて、上皇の御意志に出ていることは、いうまでもない。

公卿たちも、こんどは、沈黙しているかに見えた。――しかしそれは、陰性な用意の空間であったとみえる。やがてかれらは、忠盛の私行を、裏面からあばきたてて、意外な事実を、表面化し出した。

それは、忠盛の恋であった。忠盛に、かくし妻があったという、耳新しい取りざたである。

と、いっても、公卿たち自身、夜々に通う愛人や、かくし妻は、みな持っている。ひとり忠盛にのみ、恋をとがめる筋あいはない。

だが、問題は、恋にではなく、あいて方の女性にあるというのだ。公卿たちの見るところ、ゆゆしいひが事であり、かならずや上皇の逆鱗にふれ――ひいては忠盛の死命を扼すであろうとして――俄然、院中にうわさを立てた。

『世に、男は無くもあるまいに、スガ目殿を、恋のあいてに、えらぶとは』

『もの好きな女性も、あればあるものかな』

『いや、忠盛とて、歌のまね詠みぐらいはする男。ただ、あの顔して、どんな恋歌など』

『人は、見かけによらぬという、俗言もあれば……。さはいえぬものじゃ』

こういえば、だれしも、これには、興味をもつ。

『ほ。……スガ目殿の相手とは、一体、どこの女性か』