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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『盛遠のうわさを、お聞き及びでは、ございませぬか』

源五兵衛は、また、唐突に、こんな話を、もちだした。

西行は、灰の白さと、真っ赤な火の、映じ合う美しさに、うっとりしていたが、面をあげて、

『盛遠とは』――と、遠い過去の人みたいに、問い返した。

『去年の暮、大赦の令に、追捕の罪名からは、解かれましたが、五年前、袈裟を殺して、行方をくらました武者盛遠のことです。――近ごろ、紀州の熊野から来た男に聞いたのですが、かれも、今は仏門に入り、法名を、文覚とかいって、去年の秋、熊野権現に、百日荒行の誓願を立てて、毎日、那智の滝つぼで、滝に打たれていたとか、申すことですが』

『……ああ、あの盛遠か。……なるほど、かれの性根を打ち直すには、滝ならば那智。道ならば、自力難行の門。それしかあるまいな』

『わたくしに話したその男も、文覚とは、どんな、荒法師やらんと、滝つぼの辺へ行ってみたところ――荒繩の腹帯を巻き、鈴を振り鳴らし、しぶきの中に、声も出ぬまで、経文を唱えている姿は、身の毛もよだつばかりであったとか、語っておりました。――聞けば、幾たびか、気を失うて、おぼれ流されるところをば、那智の滝守に、救われたこともあったとやら。