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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
ひとり水をくみ、薪を割り、ふと、歌の一つも詠み出ようとすれば、谷のこずえも、雙林寺の松も、あとにのこして来た若い妻が、嘆く声にも似ていて、蕭々とふき渡る風が、にわかに耳について寝られなくなるのである。
さらに、縁につながる、幾多の生木を、みずから裂いて来た科として、自分の心も、のべつ、引き裂かれずには措かれない。
この悩みと、この哀れとは、生涯、離れうることはないであろう。だが、哀れをこそ、わが生涯の道づれにと、西行は、じっと、抱きしめている。紛らそうの、忘れようなどとは、していない。
聞説。
武者盛遠の文覚は――人間の子の必然に、与えられた煩悩と苦悩を、那智の滝に、洗い去ろうとするものらしい。そして、まったく、べつな自己を、滝つぼの底から、生み直して出ようとするもののように思われる。
(それは尊い追究だ。かれのえらんだ道も、誤りではない。だが、自分の道とは、まったくちがう。同じ、人間の悩みから、出離をこころざしたものではあるが……やはり盛遠の道は、盛遠の道。自分の道は、自分だけの、ひとりの道……)
西行は、灰の上に、あわれ、あわれ、といくつも書いた。