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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

けれど、上皇のおしのびには、ないない、世間をはばかられるわけが、べつにあった。

――というのは、その寵姫が、どうも、身分の低い女性であったことによるものらしい。

白拍子という名称は、ごく近年、聞こえだしたものであるが、かの女は、その白拍子のひとりだった。貴人の邸に招かれて、伎楽、管絃の興をそえる特種な妓は、遠い以前からあったけれど、近ごろ、たて烏帽子に白い水干を着、さや巻の太刀などさして、朗詠をうたいながら、男舞を余興にすることが流行となってから――遊君、遊女の一派として、白拍子なる一階級が、新たに、世相にうかび出している。

上皇が、どこでかの女と馴染まれたかは、よくわからないが、世間へは、中御門家の息女とふれて、八坂のほとりに、清洒な桧垣をめぐらした一と構えができ、さる白拍子あがりの佳人が、そっと匿まわれて来たことは、院の側近四、五名だけは、早くから知っていた。

その人びとの間では、かりにその女性を、祇園女御とよんでいた。女御、更衣は、宮中の称呼なので、わざと、地の名をつけてよび、世間には、退官の寵姫のように、見せつくろっていたのである。

祇園女御。