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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

――この女性こそ、後の清盛の母であった。かの女はたしかに、清盛を産んだ。それだけはまちがいない。

けれど。……父は?

父は、たれ?

――となると、かの女以外に、この秘密は、所詮、解けないなぞとなってしまう。

どうして、そんな単純なことを、なぞと考えなければならないのか。生まれて、二十年もの後、その子清盛をして、悩乱せしめなければならないのか。そのこと自体のほうが、よほど、ふしぎといってよい。

だが、こういうあやしい禍因をつくるものの素地は、やはりそのころの時代が持っていたものであろう。優雅と繊細を極めた平安朝芸術にくるまれた貴族生活の“陰翳の美”が自然に宿す黴の一つというほかはない。だから、幾世紀ものあいだを、貴族の中で送ってきた人びとの風習と性道徳にすれば、べつに奇とするほどなことでもなかったかも知れないのである。

*   *   *

寒ざむと、木の葉まじりの夜時雨が、しとどな音を、道のぬかるみにも、小川や森の上にも、立てていた。

初冬の、そんな晩でも、上皇は、供の忠盛、家貞をつれて、祇園女御の家へ、通って来られた。

すると。木の間に、赤い火のゆれと、人影が見えた。