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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
上皇は、すくみ立って、叫ばれた。
『やっ。悪鬼?』
――まるで、針の蓑を着たような、大頭の怪物が、かっと、こっちへ向いて、口を開いたかのように見えたのである。
『忠盛忠盛。斬りすてい』
上皇は、恐怖にみちたお声の下で急きたてた。あっと、木工助家貞がまず答え、忠盛は、長刀を横にひそめて、そこへ馳けた。
だが、すぐこの君臣三人は、大笑いをのこして女御の家の門へ、はいって行った。――怪物と見えたのは、笠の代りに、麦ワラを束ねて被っていた八坂の油つぎ坊主が、灯籠へ灯を入れていたものであった。
悪鬼、妖怪、雷神、風神などの実在を、貴族も一般人も、疑わない時代であった。それにしても、よほど、後では、おかしかったとみえて、当夜のおどろきや、雨夜坊主の滑稽さを、上皇自身も、たびたび、側近に語られた。
そのたびにまた、上皇には、かならずそのおりの、忠盛の態度を、賞めちぎった。もし、忠盛が、臆病者であったら、かならず過って、罪もない坊主を斬り殺していたにちがいない。剛胆、沈着、武者たる者は、よろしくかれの如きであれ――と、いうのである。
ところが、暇の多い公卿たちは、得意の臆測をもてあそんで、