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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『そうか。和殿の眼も、あれと見たか。――この春、諸国の牧から上って来た四、五十頭のうちでも、まず、あの青毛の四歳駒に及ぶ逸駿はない。こう見ていても、ほれぼれする』

源ノ渡は、大きな発見でもしたように、くり返していっていた。――さっきから、馬場の埓内へ、眼もはなたずに。

この馬囲いには、たくさんな若駒が、つながれていた。

『乗りたいな。無性に、乗りたくなる。――乗り味のよさが思われてくるのだ。堪らない名馬ではある。あの後脚からさんずにかけての、体づくりといったらない』

果ては、ひとり言にいう。

ふたりは、埓の外の、大きな桜の木の根もとに、ひざを抱え合っていた。――が、もひとりの、佐藤義清のほうは、かれほどな馬好きでないらしい。返辞は、微笑だけだった。

『義清。――和殿は、そんな気がしてこないか』

『……とは、どういう?』

『加茂の晴れの日に、あの青毛の背で、勝ち鞭をあげ、満場の凱歌につつまれたらと』

『思わぬなあ。……そんなことは』

『思わない?』

『名馬とわかれば、自分には、なお縁がないと、思うだけだ。馬がよくても、騎乗が悪くてはの』

『それや、謙譲というよりは、虚偽に聞こえる。