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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

和殿に乗りこなせないはずはない。いや、おたがい、鳥羽院の随身たり、武者所の侍ともある者がよ』

『はははは。渡、それは、はなしが違う』

『何が、違う』

『おん身は、競馬をいっているのだろう。五月の加茂の、くらべ馬にと』

『もちろん。――ここの若駒は、みなその日のために祝されている駒だ』

『――が、わしは競馬はきらいでな。車駕の御供に、随身として、乗るならべつだが』

『いざ、合戦の日には』

『ねがわくば、戦には、会いたくない。近ごろ、武人の身を、悔いることしきりなのだ』

『ふム……』と、不審そうな眼を、友の顔にこらして、

『北面の中でも、わけて勇猛と聞こえのある、佐藤兵衛尉義清の口から、いままでにない言葉を聞く。どうかしたのか。おい』

『どうもせぬよ』

『恋でも……』

『恋も、してみないことではないさ。それが今の妻だ。あの妻で不足はない。……が、実をいえば、数日前、この春の曙に、玉のような、子が生まれた。わしも父になったのだ』

『おれたち、武者輩でも、おのおの、家庭をもてば、子どもも生む。それが、なんのふしぎか』

『そうだ。実に、子だくさんがそろっている。そして、生みうみするものを、よくもまた、あわれとも、思わぬのが、ふしぎでならぬ』