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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

右馬頭、左馬頭らの配下は、この朝に人員も増されたし、役柄も大いにふるった。特に、競馬御料として、二十ヵ所の庄園を諸地方に下付されたのも、それ以来のことである。

ひいて、白河上皇、いまの鳥羽上皇も、その君に、おさおさ劣らぬおすきであった。

――きょう。右近の馬場へ、わざわざ御車をおむけになったのも、能登、加賀、出雲、伯耆、伊予、播磨、下毛野、武蔵などの御料の牧の若駒どもが、加茂の五月をまえに、ぞくぞく都へひかれて来たので、それらを選りすぐって、院の馬寮へ収められる思し召しのためだった。

『忠盛やある』

上皇は、お声をかけた。たくさんな若駒を、一頭一頭熱心に見て来られたのち、扈従の公卿たちの頭を越えて、随身の武者忠盛へ、じきじきに、訊かれたのである。

『ことしは、さして、眼をそばだたすほどな名馬も見えぬの。そちの眼ではどうか』

平伏した忠盛は、わずかに、頭を上げて答えた。

『いえ。ただ一頭は、なかなか優れて見えました』

『一頭は――というか。はての……オオ、下毛野駒の、青毛ではないか』

『おめがねの通りであります』

『あれなら、まろも、つなぎ杭の前で、しばし見とれたが、馬観たちも、公卿どもも、口をそろえてやめよというた。