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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
は、そのころ、まだ極めて少数な武人の家として、有数な名家にはちがいない。都の片すみでは、もう数代の祖おやを経ている中流社会の一戸であった。そしてこれからも、屋敷畑の芋のように、子蔓孫蔓を幾代にも世の中へはわせて行くであろうことも確実であった。しかし、清盛はまだ、自分がどんな芋なのやら、運命の蔓に生っているものやら、何も自覚はしていなかった。ただかれの若い生命は、至極、屈託のない、健康なものであったということだけはたしかである。
きょうの使いはわかっている。清盛には読めていた。また親戚へ金借りにゆくのだ。
めずらしいことではない。――先は、父のただひとりの弟、兵部省出仕の北面の侍、平ノ忠正の家と、泣きつく所もきまっている。
この正月。――明けてことしは保延三年だが、春早々から、あの母が、風邪を重らせて、寝こんだのである。
典医を呼べの。高価な薬を取り寄せろの。やれ、夜具が重いの。こんな食物は病人にたべられぬのと。――例によって、かの女のわがままは、家じゅうを、手こずらせた。
ここ一年の余、うっかり忘れていた貧乏が、そのため、一夜のうちに、凩のようにまたやってきた。