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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

身を硬めて、その唇もとを仰いでいた部将たちは、いつか自己をも見失っていた。

「この身、まだわずか三千石より一躍二十五万石を拝領、以後、近江丹波にわたるこの位置、公私何くれとなき重恩、右大臣家のこの光秀に施されたる御恩は決して忘れるものではないが」

と、彼はまずそれからいって、次に、明智家が報じた数々の功を称え、一転して、信州上ノ諏訪で折檻をうけたこと、以後たびたび不興にふれ、高家大名たちの前では、忍び得べからざる辱を蒙って来たこと。かつは先頃、家康の馳走役を剥がれ、世上一般のわらい草に供され、あまつさえ、中国出陣の上は秀吉の下風につけといわぬばかりな軍令をうけるに至っては、武門として、今は堪忍なり難い切迫というのほかはないということ。

さらに、それから、信長のために多年功労をささげては自滅し去った人々の先例をあげ、彼の無残苛烈な性格の一面を抉り、また叡山焼打のこと、義昭追放の件、そのほか彼の覇道的な猛進をもって、信長こそ道義の敵、文化の破壊者、制度と伝統を紊す国の賊子であるとなして、その末に、

「この程、光秀は一切を思い断って、こういう述懐の一首を詠じた。