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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
女の方がせいが低いので、浜田はあたかも髪の毛の匂を嗅ぎでもするように、頭をぐっと斜めにかしげて、耳のあたりを綺羅子の横鬢に喰っ着けている。綺羅子は綺羅子で、眼尻に皺が寄るほど強く男の頬ッぺたへ額をあてている。二つの顔は四つの眼玉をパチクリさせながら、体は離れることがあっても、首と首とはいっかな離れずに踊って行きます。
「譲治さん、あの踊り方を知っている?」
「何だか知らないが、あんまり見っともいいもんじゃないね」
「ほんとうよ、実際下品よ」
ナオミはペッペッと唾を吐くような口つきをして、
「あれはチーク・ダンスって云って、真面目な場所でやれるものじゃないんだって。アメリカあたりであれをやったら、退場して下さいって云われるんだって。浜さんもいいけれど、全く気障よ」
「だが女の方も女の方だね」
「そりゃそうよ、どうせ女優なんて者はあんな者よ、全体此処へ女優を入れるのが悪いんだわ、そんなことをしたらほんとうのレディーは来なくなるわ」
「男にしたって、お前はひどくやかましいことを云ったけれど、紺の背広を着ている者は少いじゃないか。浜田君だってあんななりをしているし、………」